ビジネス英語らしいものの学習(その1)

英語教育分野における、いわゆるビジネス英語のあり方については別の機会に述べたいと思いますが、私がなぜビジネスシーンで使われる英語に興味を持つに至ったのか、その経緯についてお話したいと思います。いろいろな話題があるので、何回かに分けて書かないといけないと思います。

現在、円安が話題となり、米ドルが一時160円前後と非常に高値になっていました。この文章を執筆している間にはほぼ1ドルが147円前後になっているようです。しかし、実のところ昔はもっと米ドルは高かったのです。そのことを示すかなり長期間の為替相場の推移がこちらにありました。

https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/2022/10/irepo221021

こちらのサイトでの「図表:ドル円相場とトレンド転換となった過去のイベント」というグラフをごらんになってください。ご覧の通り、1971年には1ドルは360円程度だったのです。私が大学を卒業したのは昭和51年、つまり1976年でしたが、その前年、つまり1975年には、まだ1ドルが300円前後だったのです。大学を卒業してしばらくすると、ドル円は急落し、250円、さらには200円まで下落しました。卒業後ほんの4年ほどの間に起きたことです。

実は、英語が好きだった私は高校時代から神戸の元町というところにあった、洋書販売で有名な書店によく通っていました。高校生ですのでお金もあまりなく、行くたびに必ず何か洋書を買うということはなかったのですが、毎週土曜日には洋書を眺めながらその書店の中をブラブラしていたのです。さて、当時ドル相場が急激に変動していたため、1ドルいくらで洋書の値段が計算されているのか、気になってきました。このことが原因でよく洋書売り場の店員さんと議論になったものです。

私:「円がこんなに高くなってドルがとても安くなっているのに、なぜ洋書の値段はこんなに高いのですか?」
店員さん:「いやいや、仕入れの時の為替相場からすると小売価格を下げられないんですよ。」

といった具合です。私は納得できませんでした。1ヶ月後などにまた洋書売り場を訪れると、円高が進んでドルがさらに下落しているものですから、また同じような議論を店員さんにふっかけます。イギリスのポンドも、1ポンド800円くらいだったのが、急激に400円台まで下落しました。しかし、オックスフォード大学出版局など有名どころのイギリスの出版社の書籍などは、1ポンドあたりの日本円換算値段が全く変わらないのです。当時は高校教員をしていましたが、いい英語の教材や音声学の専門書などは結構イギリスの出版社のものが多く、何かイギリスの出版社の本を買うたびに、その時点での為替相場からすれば、とても価格が高いなあと感じていました。もちろん、

「ポンドもこんなに安くなっているのに、なぜこんなに高いのですか?」

などと店員さんに議論をふっかけるのですが、結果はいつも同じでした。

当時、私は高校の教員をしていましたが、新聞の経済面、為替相場は毎日チェックしていました。働き出してすぐだったのですが、職場の同僚にすすめられて遊び気分で株も買っていたので、毎日欠かさず相場のチェックはしていました。なお、数ヶ月の間に何度か同じようなことを洋書売り場の店員さんに訴えても、洋書の値段はなかなか変わりませんでした。

その時、「もういいや、自分で輸入すればいいんだ」と思った私は、自分で洋書を輸入することにしました。しかしながら、当時はAmazonもありませんし、周囲には洋書を自分個人で輸入している人などいませんでした。どうすれば英語教育用の教材に使える本や英語教育、音声学の専門書を個人が輸入できるのかといった知識も全くありませんでした。このため、私がとった手段は、自分が持っていた洋書の出版社宛に直接本を注文できるか、そしてその出版社の最新の英語教育や言語学、音声学関係のカタログを送ってくれないかを問い合わせる手紙を書くことでした。出版社の住所については、洋書には出版社の住所が記載されているので、手紙はそちらに送ります。ほとんどが貿易実務のことでしたが、大学時代にビジネス英語(商業英語という科目でした)の授業も受講していましたし、ビジネス英語の本も持っていましたので、それらを参考に、実際に手紙を書いてみたのです。5社や10社どころではなく、おそらく数十社に手紙を出したと思います。

当時、私はオリベッティの安価なタイプライターを持っていました。どこの出版社にいつ手紙を送ったのか忘れないようにするため、タイプライターを打つ時にはカーボン紙を挟んで、自分用のコピーもとるようにしました。出版社の中には、カタログを送ってくれ、注文を受け付けてくれるところもありました。カタログだけは送ってくれた出版社はありましたが、ほとんどの場合、直接販売は「ノー」でした。返信に多かったのは、出版社としては直接小売はしませんので、どこかretail shopで購入してくださいという内容でした。この時に初めてretailという言葉を知ったのですが、確かに、小口の個人の注文にわざわざ対応するのは大変だろうなということは理解できました。

しかし、そのうち小口の個人の注文にわざわざ対応できないという返信をもらった後に、「直接個人への注文に応じてくれないのであれば、あなたの地域の書店を紹介してください。そしてその住所を教えてください」という手紙を出しました。また、その後出版社に直接注文に対応してくれるかどうかの問い合わせの手紙を送る時には、手紙の最後にこの文言を付け加えるようにしました。

こういうことをやっているうちに、徐々に現地の小売書店の情報が入るようになります。当時、アメリカよりもむしろイギリスの書籍を買うことが多かったので、HeffersやBlackwell’sなどを紹介してもらって、さっそく洋書を注文しました。

このようなやり取りで、いろいろとビジネスでのレターライティングに慣れていきました。最初、Enclosed please find our latest catalogue.などといった表現に出会った時には、なんだこれは?と戸惑ったりしましたが、徐々に自分もビジネスにふさわしい英語が書けるようになってきました。とにかく数をこなしていただめ、1年もしないうちにビジネスでのレターライティングには慣れてしまいます。まだまだ書きたいことはあるのですが、長くなるので、私のビジネス英語の出会いの続きの話は、またあらためて書いてみたいと思います。