本当のビジネス英語とは?
ビジネス英語、あるいはそれに類した科目は日本の多数の大学で開講されていると思います。外国語学部、国際関係学部系の学部だけではなく、経営学部や経済学部、また法学部等でもビジネス英語的な科目が開講されていると思います。
ところでこのビジネス英語的な科目の中身は大きく2つに大別されるようです。1つは貿易英語に関する内容です。日本の大学でかつては例えば商業英語というタイトルでこの種の科目が開講されていたことがあります。この種の科目では貿易実務に関する英語が教えられていました。このため、Letter of Credit、CIF、FOB、あるいはIncotermsなどといった貿易取引に必要な用語や概念を学び、それに関連する英語を学ぶことが中心になっています。また、インターネット出現前であれば、貿易実務に関する英語でのビジネスレターの書き方なども学びました。国際的なビジネスを行うにあたり必要となる実用的な英語が学べると思って受講した学生にとっては、このような専門的な貿易に関する英語は難易度が高く、途中で単位取得を諦めて辞めていく学生が結構あったものでした。
もう一つのビジネス英語のタイプは、ビジネス現場で使われる日常英会話といった内容です。例えば、英語圏では有名なとある大学出版局から出版されている、初級〜中級クラスのビジネス英語のテキストの内容を見てみましょう。テキストの目次を参考に学習すべき項目を並べたところ、次のようになっていました。同様の感じのものが多いようです。
Talking about your job 自己紹介、自分の仕事について話す
Introducing people 職場の同僚、役職名について学ぶ
Explaining office layout 職場、建物のレイアウト、部署のある場所などについて学ぶ
Giving instructions 同僚などに仕事の手順を教える
Inviting パーティーなどに招待する
Making arrangements 出張などのアレンジをする
Offering to help ヘルプの申し出をする
Apologizing 謝罪のしかた
Talking about sales 販売について話す
Saying large numbers 桁数の多い数字の言い方
Taking telephone messages 電話対応
Discussing future plans 個人的な将来のプラン、夢について話す
Dealing with inquiries 問い合わせに答える
Making comparisons 製品などの比較をする
このタイプのビジネス英語テキストは、非常に実用的な内容になってはいるのですが、実のところビジネスのコンテンツにまで足を踏み入れた内容にはなっていません。例えば、英語でミーティングをしていて、ある製品の製造を担当しているビジネスユニットの存続の可否について議論が及び、そこで製品のLife Cycleの話が出てきたとします。この場合、たとえばmaturity stageやdeclining stageといった用語がわかるか、decline stageにある製品について延命措置としてはどういう手段があるのかという議論になると、単なる職場での日常英会話のレベルでは対処できません。しかしながら、経営やマーケティング分野では製品のProduct Life Cycleはビジネス上の必須知識であり、たとえ対人関係をうまくやっていける日常英会話の力があってもこの知識がなければミーティングで対応ができません。あるいは、ある製品が思いのほかよく売れており、さらに製造ラインを増やそう、あるいは製造に必要な製造機器をさらに追加で購入するという議論になった時、marginal costの概念が議論され、計画の可否が検討されることがよくあると思われます。このような場合も、上で示したようなビジネス英語のテキストで学んだ受講生は対処できません。
ビジネス英語を長期間学んでもなかなか仕事の実践では役立たない、長期間ビジネス英語を学んだのに自分がどの程度力をのばすことができたのかが認識できないというのはこのような事情があるのだと思われます。企業でのビジネス英語研修では、まさにビジネスの核心部分に関わる語彙や概念を学んだうえで、英語で経営や意思決定にかかわることができるシン(=新&真)・ビジネス英語の力を養成することが期待されます。